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金沢地方裁判所 平成3年(行ウ)2号 判決 1993年2月19日

石川県輪島市新橋通六字四番地の九

原告

野村正廣こと 姜錫采

右訴訟代理人弁護士

堀口康純

押野毅

同市河井町一五部九〇の一六

被告

輪島税務署長 坂井文夫

右指定代理人

玉越義雄

山下純

高橋利幸

土田栄

本多猛

寺俊昭

高井和男

按田隆重

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求の趣旨

被告が、原告に対し、いずれも平成元年八月四日付けでした左記各処分(以下「本件各処分」という。)をそれぞれ取り消す。

1  昭和六〇年及び昭和六二年分の各所得税のいずれも平成元年三月二七日の修正申告により納付すべき本税に対する重加算税の各賦課決定処分

2  昭和五九年分、昭和六〇年分及び昭和六二年分の各所得税についての所得税額等の各更正処分及び重加算税の各賦課決定処分

3  昭和六一年分の所得税についての所得税額等の更正処分並びに過少申告加算税及び重加算税の賦課決定処分

第二事案の概要

一  争いのない事実

1  原告は、昭和五九年から昭和六二年(以下「本件各係争年度」という。)までの間、石川県珠洲市内等においてぱちんこ店を営んでいた。

2  原告は、被告に対し、本件各係争年度分の所得税について、右ぱちんこ業から生ずる所得を含めて、それぞれ別紙第一記載の申告日に、同記載の総所得金額及び所得税額のとおり確定申告(いわゆる青色申告による)及び修正申告(いわゆる白色申告による)を行った。

3  これにつき、被告は、原告に対し、本件各処分をした。

4  後記原告主張の簿外経費がないと仮定した場合、本件各処分は違法ではない。すなわち、原告が主張する本件各処分の瑕疵は、後記原告主張の簿外経費があることのみを理由とするものである。

二  原告の主張

原告は、本件各係争年度において、別紙第二記載のとおり、前記事業の必要経費として、旅費交通費、接待交際費、慶弔費を簿外で支出した(同記載の額は各月及び年度ごとの合計額である。)ところ、本件各処分は、これらを考慮せずに過大に本税額を算出して更正処分をし、かつこれを前提として重加算税及び過少申告加算税の各賦課決定処分をしたものであり、違法である。

三  右に対する被告の主張

原告主張の経費については、その支出自体認めることができないし、仮に一部支出したことがあったとしても、内容等が著しく曖昧であって、証拠資料上その額等を確定できず、被告が本件各処分をするに際して斟酌した必要経費額を上廻る必要経費を原告が支出したことは認められない。

四  当事者間に争いがない本件各処分前後の経緯(便宜関係証拠も摘示する)

1  原告は、被告に対し、別紙第一のとおりの日に、それぞれ本件係争年度分の所得税の各確定申告をした(乙一ないし四)。これら申告の当時、原告は青色申告者であり、同時に青色申告決算書を提出していた(乙一七、二一、二三、二五)。

2  右確定申告のうち、最後の昭和六二年分の所得税の確定申告は昭和六三年三月一五日にされた。

そのころ、金沢国税局調査査察部の職員は原告に対する査察調査に着手した(乙一八、一九、弁論の全趣旨)。同職員の調査に基づき被告は、原告の本件各係争年度分の所得につき売上除外、仕入額水増し計上等の不正経理に基づく脱税の存在を把握したとして、平成元年二月六日付けで原告について昭和五九年分以降の所得税の青色申告の承認取消処分をし(乙五)、さらに原告は平成元年二月一四日付けで昭和六〇年ないし昭和六二年分について、所得税法違反(租税逋脱-ほだつ-)として金沢地方検察庁へ告発され、そのころ当庁に起訴された(乙六、乙七、弁論の全趣旨)。

3  原告は、平成元年三月二七日、昭和六〇年ないし昭和六二年分の所得税について修正申告をしたが(乙八ないし一〇)、平成元年八月四日付けでこれについての重加算税の賦課決定処分を受け(請求の趣旨1の処分。乙一一、一二)、更に本件係争年度分の所得額に不足があるとして同日付けで更正処分及び重加算税、過少申告加算税の賦課決定処分を受けた(請求の趣旨2、3の処分。乙一三ないし一六。以上を合わせたものが本件各処分である。)

そこで原告は、右処分を不服として同年一〇月三日被告に対し異議申立てをし、三か月を経過しても決定がされなかったので、平成二年六月二〇日国税不服審判所長に審査請求したが、更に三か月を経過しても裁決がされなかったので、平成三年六月三日本訴を提起した。

4  原告は、平成三年二月八日、前記訴訟にかかる事実で、当庁において、懲役及び罰金の刑の宣告を受(乙七)、控訴したが、同年一二月五日控訴棄却の判決を受け(乙二六)、現在上告中である。

第三判断

一  原告主張の簿外経費の支出を裏付ける証拠としては、原告自ら作成した上申書(甲一。以下「本件上申書」という。)と原告本人の供述のみである。そこで、まず、これらの信用性を検討する。

1  原告が確定申告した所得金額と本件の各更正処分における所得金額の差額は、別紙第一記載のとおり一億四〇〇〇万円以上にも及ぶものである。

2  しかるところ、前記当事者間に争いがない事実、以下括弧内に摘示の証拠及び弁論の全趣旨を総合すると、以下の事情を認めることができ、この認定に反する証拠はない。

すなわち、原告は、査察調査を受けて所得の申告もれが解明されることを察知するに及んで、右査察調査の途中から、当初の申告の際には主張していなかった旅費交通費、接待交際費及び慶弔費が簿外で存在すると主張するに至り、昭和六三年七、八月ごろ、これについて記載した上申書数通を金沢国税局に提出した(甲一、乙七、弁論の全趣旨)。そこで、被告は、原告主張のとおりの額(ただし、慶弔費の半分を除く。を経費として認めることにした(乙七)。

ところが、原告は、本件の各更正処分の認定に近い多額の租税逋脱があったとして起訴された所得税法違反事件の公判において、更に遥かに多額の旅費交通費、接待交際費及び慶弔費があったと主張して、平成二年四月四日付けの上申書を提出し、これは本件各係争年度当時のことをすべて冷静に思い起こして事実を記録したものであり、以前に提出した上申書は概数を記載したものに過ぎない旨述べた(甲一、乙七)。

しかるに、右所得税法違反事件の第一審判決中において、「右四月四日付けの上申書には、支出内訳の説明中に時間的に実行困難な出張の記載があるなど不合理な点があり信用できない」旨指摘されたところ、右上申書のうち日付等の記載はそのままにして、右出張先等の説明部分を省いたものを本件上申書として平成四年九月一一日の本訴口頭弁論期日において提出した(乙七、原告本人、弁論の全趣旨。なお、本件上申書には、前記三費目の簿外経費の他に、簿外経費として出張先での通信費や借入営業資金の利子割引料の支払があるとの概括的な主張や、被告によって是認されたもの以外にも貸倒損失がある旨の記録もされている。)。

その一方で、原告は、国税不服審判所長への審査請求の手続においては、本件上申書の作成日付以後である平成二年九月二七日付けの別個の上申書を提出した(原告本人)。

右によれば、本件各係争年度分の所得についての簿外経費に関する原告の主張自体、全く一貫しないものであるというほかない。

3  その上、右経費については、事業経理に係る帳簿に記載されていないという(原告本人、原告の主張)だけでなく、その支出先、支出目的等が著しく曖昧で(諸般の事情により明らかにできないものが多いことは、原告本人が自ら述べているところである。)、かつ支出回数が多く、また、必要経費として主張する額が本件で争いのない原告の総所得金額に比して極めて多額でもあるから、これを認定させるのに十分な確たる証拠資料を提出すべきところ、手元にあったというメモや、手帳への記載、カレンダーへの書き込み等々の、原告の記憶喚起の基となり、その正確性を裏付けるべき原始資料すら全然提出しないのであるから、その具体的内容上の不自然不合理、客観的証拠との矛盾等につき逐一指摘するまでもなく、本件上申書の証明力は著しく低いものといわざるを得ず、これに依拠する原告本人の供述もまた同断である。前記原始資料を提出しないこと、あるいはできないことにつき、原告本人の供述中において、るる説明しているが、そのほとんどはにわかに納得し難いものであるし、その説明自体が部分的に真実としても、的確な原始資料の提出がない限り、本件上申書の証明力が著しく低いことは動かないところである。

二  ほかに、原告の主張を認めさせる的確な証拠は見当たらない。このような証拠状況にあっては、以下のように判断するほかない。

すなわち、原告は、昭和五九年分については、そもそも具体的な簿外経費の支出についての主張をせず(接待交際費、慶弔費に至ってはその総額の下限額さえ明らかにしない。)、昭和六〇年ないし昭和六二年分についても、右一のとおり、原告の主張の真実性を検証しうる具体的主張も、また領収書その他の具体的裏付け資料の提出もしようとしない。そうであれば、原告主張の簿外経費については的確な資料がないに帰するので、結局は、本件各処分の過程において原告の申告に沿って被告が認めた前示必要経費を超える経費はなかったものというべきことになる。すなわち、仮に原告が簿外の必要経費と主張するものの一部が現実に支出されたものとしても、その金額、目的等々につき具体的に明らかにすることができない以上、結局、原告主張の経費全体についてその存在が認められないものとして扱わざるを得ない(ちなみに、被告は、本件各処分をするに際して、原告主張の簿外経費の費目である旅費交通費及び接待交際費について、同業者の二倍ないし一〇倍にも及ぶ控除を認めているのであるから(乙二六)、仮に、いくらか必要経費というべき簿外経費が真実あったとしても、原告主張の経費の存在を全く認めなかったからといって、被告において過大な課税をしたという事態は生じていないものと窺えるところである。)。

以上、本件各処分につき、原告主張の取消原因があるとは到底認めることができないので、原告の請求は棄却を免れない。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 伊藤剛 裁判官 橋本良成 裁判官 山田徹)

別紙第一

<省略>

別紙第二

<省略>

<省略>

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